昔書いた数学の教科書や学び方について説明する記事で,自分はこんなことを言っていました.
(圏論は)位相空間論と同じく,「さまざまな分野で基礎となる抽象論」というポジションであり,そのためモチベーションがわかりづらい面がある.某先生は,かつて私に対して「圏論なんて何がおもしろいんですか.私は,あんなものおもしろいとは思いませんけどね」とおっしゃったことがある.最初のうちはあまり深入りしない方がよいと思う.必要になったときに戻ってきて勉強すればいい.
今見返してみると,圏論に詳しい人に怒られそうな内容です.「わかりづらい面がある」って,自分がわからないだけなのに誤魔化してますね.
紹介するからにはきちんと意義を強調したいところです.
圏論はつまらないと公言する先生がいたのは本当です.でも,その先生は著書の中で「自然な対象とは,関手によって定義される対象のことである」*1 とよくわからないことを書いてしまうような人だったし,たぶんあまり圏論には詳しくなかったのだと思います.
偏見と言われても仕方ないので,余裕があったら直したいです.
しかし,直したいと言いつつ「圏論でどういう問題が解けるようになるか」が,私は今でもよくわかっていません.一時期代数幾何をやっていたので,圏論が必要になる分野があることは知っているのですが,「圏論で記述された問題が圏論で解かれている」ことしか知らないのでいまいち説得力に欠けます.自分の中で消化できていない.圏論に関係なさそうな問題が圏論で解ける例が欲しい.
同じく基礎理論として私が例に出している位相空間論には,そういうたぐいの応用例がたくさんあります.
よく比較される集合論だって,超越数の存在証明や超限帰納法などがありますよね.
圏論にもそういう例があるに違いないと思うんですよ.ただ,ぱっと思いつかない….
「像より逆像の方が性質が良い理由が説明できる」のはおもしろいですが,問題が解けているとは言えない気がします.
随伴関手定理を使って,一見して随伴が思いつかない関手に随伴があることが主張できるのは良い線をいってますが,まだちょっと弱いかな.
うーん….
*1:射の集まりに対して自然ということはよくありますが,対象が自然というのはこの本のこの箇所以外では見たことがありません