Shoup『A Computational Introduction to Number Theory and Algebra』を読んでいきます.
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今回やるのは演習問題5.5です.
問題文
原文はこちら.
The previous exercise showed that $φ(n)$ could be as small as (about) $n/\log \log n$ for infinitely many $n$. Show that this is the "worst case," in the sense that $φ(n) = \Omega(n / \log \log n)$.
Exercise 5.5
訳すとしたらこうです.
前回の演習問題で無限に多くの $n$ に対して $φ(n)$ がおおよそ $n/ \log \log n$ まで小さくなることを示した.この下界が最善であること,つまり $φ(n) = \Omega(n / \log \log n)$ であることを示せ.
回答
φ関数の定義から
$$ φ(n) = n \prod_{p \ \mid \ n} (1 - 1/p) $$
が成り立ちます.
ここまではいいですね.この後が問題です.
方針1: Mertensの定理を使う
前回の問題同様,まずMertensの定理を使ってみます.
$n$ の素因数のうち最大のものを $q$ としましょう.
そうするとMertensの定理から
$$ φ(n) = \Omega(n / \log q) $$
が示せます.
後は $q = O(\log n)$ が示せれば良いわけですが,しかしそれは無理です.
$n$ が素数の平方であるようなときには $q = \Theta(\sqrt{n})$ なので,示せるわけがありません.
$q = O(n)$ は明らかに成り立つので,このアプローチで示せるのは $φ(n) = \Omega(n / \log n)$ までです.
したがって別のアプローチを採る必要があります.
方針2: 前回の演習問題の結果を使う
前回の演習の結果を使うのも鉄板の方針です.
$n$ の素因数の個数を $\omega$ とします.
$p_i$ は小さいほうから $i$ 番目の素数なので,
が成り立ちます.
したがって
です.ですから前回の演習問題の結果により $φ(n)/n = \Omega(1/ \log \log P_ω)$ です.
明らかに $P_ω = O(n)$ なので,これにより $φ(n) = Ω(n/ \log \log n)$ が言えます.
意外とうまくいきました.
感想
オイラーの φ関数の漸近挙動って示せるんですね.
なんだか意外.もっと難しいというイメージだったので.