パンの木を植えて

主として数学の話をするブログ

群論 - Group Theory -

\[ %%% 黒板太字 %%% \newcommand{\A}{\mathbb{A}} %アフィン空間 \newcommand{\C}{\mathbb{C}} %複素数 \newcommand{\F}{\mathbb{F}} %有限体 \newcommand{\N}{\mathbb{N}} %自然数 \newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} %有理数 \newcommand{\R}{\mathbb{R}} %実数 \newcommand{\Z}{\mathbb{Z}} %整数 %%% 2項演算 %%% \newcommand{\f}[2]{ \frac{#1}{#2} } \]
\[ %%% 黒板太字 %%% \newcommand{\R}{\mathbb{R}} \newcommand{\C}{\mathbb{C}} \newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} \newcommand{\Z}{\mathbb{Z}} \newcommand{\F}{\mathbb{F}} \newcommand{\N}{\mathbb{N}} %%% カリグラフィー %%% \newcommand{\calf}{\mathcal{F} } \newcommand{\calg}{\mathcal{G} } %%% 引数を取るもの %%% \newcommand{\f}[2]{ \frac{#1}{#2} } \newcommand{\im}{\operatorname{im} } \]

latest update: 2022.06.30

2022.06.30 分野ツリーを削除

2022.06.12 分野ツリーを作成

2022.06.06 書評を修正.

2022.06.02 書評部分を修正.

2022.04.15 公開

前提知識

graph TB S(START) --> A(線形代数) A --> F(群論)


証明を理解するだけなら,基本的な集合の記法がわかっていれば十分でしょう.しかし具体例を知っていた方がいいので,線形代数はあらかじめ学んでおくことをお勧めします.


概要

群とは,ある集合に対する可逆な作用の集まりのことです.群論は,群に対して成り立つ事実をまとめたものであるといえます.

よく「群は,対称性を表すために使う」と紹介されることがあります.

その理解で全然間違っていないのですが,対称性とはおよそ関係がなさそうなところにも群は出てきます.

作用を考える以外の群の使い方としてよくあるのは,不変量を群として取り出すというものです.群の圏への関手を構成するといってもいいです.代数トポロジーにおける基本群や,Galois理論におけるGalois群はこの使い方をしている例になっています.群の圏に限らず,関手が構成できるのは大抵の場合喜ばしいことです.

また,有限Abel群などの場合は構造がよく知られているので,過去に構築された理論へアクセスするための道具として使われることもあります.群論を便利なライブラリとして使う使い方です.


文献

雪江『代数学1』

群論の定番教科書です.少なくとも私が学部生のときにはそうでした.なかなか良い本ですが,「お勧め!!」という感じでもないです.星4くらい.群論をどの本で学ぶか迷っているなら,この本にしておくのが良いんじゃないでしょうか.

この代数学シリーズの本はどうにも動機や発想の経緯の説明が乏しく,たくさんのことを一度に説明しようとして消化不良になっていることが多いので最近はあまり積極的に勧める気になりません.

良いところを挙げるとすれば,well-definedという言葉の説明が丁寧なのがいいですね.well-definedという概念は今後の数学で重要になるのでここでしっかり説明するのは本当に正しいことです.

イメージを言うと,「定義がうまくいっている」という感じなのですが,初学者にはとっつきにくいようです.たとえば例を挙げると,ふたりの人物の年齢の差はwell-definedですが年齢の比はwell-definedではありません.年齢の比は「どの時点で年齢を考えているか」に依存してしまい,生年だけによらないからです.


ところで,この本では単純群の定義をするときに可換な群を除外していますが,このような定義は一般的ではないことを注意しておきます.

また,冒頭に「自然な対象とは関手を使って定義される対象である」という記述があるのですが,その記述は圏論的には誤解を招く表現なので無視してください.


Armstrong『Groups and Symmetry』

対称性という観点から群論を説明する本です.可解群や冪零群の話は載っていませんので後でGalois理論を勉強する際には適宜補う必要はありますが,「群論を使ってどういう問題が解けるか」を知りたいと思っているなら覗いてみるのも良いでしょう.原著の出版は1988年でありまして,かなりのロングセラーです.


Davvaz『Groups and Symmetry』

タイトルの通り対称性に着目した本です.著者がイランのひとらしく,本の中に地元の素敵な工芸品のお写真がたくさん載っています,微笑ましいですね.

同じ著者による『A First Course in Group Theory』という本があって,その続きです.目次をみると Sylow の定理から始まっており,壁紙群の話などを経由して表現論の初めのあたりに到達したところで終わります.Burnside の定理への表現論の応用も説明されているみたいですね.見た目に反してそれなりに数学的なボリュームのある本です.


次に学べる分野

graph TB; A(群論) --> B(初等整数論); A --> C(代数幾何); A --> D(ガロア理論); A --> E(表現論);


初等整数論を学べば,群論で学んだことの応用を知ることができます.たとえばFermatの小定理は,有限群についてのLagrangeの定理からただちに従います.また剰余環の単数群の構造定理から,素数判定問題に対するラビンミラー判定法という有用なアルゴリズムを得ることができます.こうした応用は微積の知識がなくても理解することができます.


代数幾何を次に学べると書きましたが,もちろんスキーム論のことではありません.必要な環論の予備知識を補いながら,代数多様体の古典的な扱いを学ぶことを想定しています.


ガロア理論を学ぶことは,さらに一般論の知識を蓄えることを意味しています.ガロア理論は,体の拡大とそのガロア群とを結びつける理論であり,5次以上の方程式には代数的な解の公式がないことを示すのに使われたことで有名ですが,方程式論にとどまらず数学全体に大きな影響を及ぼしました.現在では体についての基本的な理論として受け入れられており,基礎的な一般論として様々な分野で参照されます.


表現論という分野もあります.これは群論の最も正統な続編といえるのですが,この時点の予備知識で次に表現論に進んでしまうと動機を理解するのが難しいため,紹介するのはかなり後になりそうです.後で出てくる Fourier解析の一般化になっているので,Fouerir解析を学んだ後の方がよく理解できると思います.とりあえず,今は他の3つの分野のうちのどれかに進むことを検討してください.