おはようございます.
共立出版から DeGroot, Schervish 『Probability and Statistics』の邦訳が出版されることになったようです.
発売は 2022年3月とのこと.
大学で初めて確率論や統計を勉強するひとに向けた,入門的な教科書のようですね.
私は確率・統計は昔から苦手で,敬遠してきたんですけどこれを機にちょっとは勉強しようと思いまして,原著を入手してみました.
ちょっと中身を読んでみましたが,アメリカの教科書らしく具体例がぱんぱんに詰め込まれていて良い感じでした.
900ページもあるんで読むとしたら電子書籍一択になっちゃうんですけど,まあ外れの本ではなさそうです.
中でもおもしろかったものを軽く紹介していこうと思います.
1.11 Statistical Swindles
Swindle というのは詐欺とか偽物,まがいものみたいな意味の言葉で,要は「統計でひとを騙す」というセクションです.
やっぱり統計といえば詐欺ですよね.
まだ第1章なんで初等的で見やすい例しかないんですが,いろいろ紹介されてておもしろいですね.
著者が紹介しているもののひとつに,「絶対に損をしない株価予報」(Perfect Forecasts) というのがあります.
どのように行うのか.
まず,$2^ 7 = 128$ 人のひとに一斉に株価予想メールを送ります.文面は「上がる」「下がる」の2通りしかないものとします.半分の 64 人に「上がる」と送り,もう半分の 64 人には「下がる」と送ります.
次の週になれば,どちらが正しかったかわかりますね.
そこで今度は「正しかった方の64人全員」に同じことをします.上がるか下がるかのメールをきっかり半分ずつに送るのです.
これを最初に 128 人いたので,7週連続正しい株価予想を送られたひとがちょうど1人存在します.
そこで満を持して「うちの社のメールを購読すれば,毎週株価予想を送って差し上げますよ」と勧誘するのです.
いままでずっと(結果的に)正しい予報を送られ続けたそのひとは,うっかりこの会社が本当に株価を予想しているのだと勘違いするという寸法です.
あら,こわい.
この勧誘手法がうまく行くかどうかはさておき,結構普遍的に見られる誤謬であることは指摘しておきたいところです.
同じようなものに「じゃんけん大会の誤謬」があります.
1/2 の確率で勝ち,1/2の確率で負けるゲームがあったとして,それにたくさんのひとが参加したとします.そうするととても幸運な何人かは,ずーっと勝ち続けるわけです.そして「自分はこのゲームのコツをつかんだ!」と誤った確信を持ってしまうという話です.
もし自分が全人類参加のじゃんけん大会のチャンピオンになってしまったら,絶対自分に才能があると思い込んでしまいそうじゃないですか?
じゃんけんみたいなランダム性が判りやすいものなら陥らないと思いますが,判りにくいやつだと意外と簡単にハマってしまいます.
自分に才能があると思い込むだけなら可愛いものですが,往々にして「私はこのようにしてこのゲームに勝ち続けました」とセミナーを開いたりするわけです.本当は偶然勝ってるだけなのにね.
投資の中には結構ギャンブル性が高いものがありますが,そういう投資で儲けて「私はこうやって儲けました」と言ってるひとの大半は単に幸運を引いただけだと思われます.騙されて「私も儲けられるかも」と思う人は実際,結構いるでしょう?
感想とまとめ
確率・統計は苦手です.
とくに統計が苦手.
なぜ苦手かというと,統計って解きたい問題が数学の中にないからです.
経済とか医学とか生物とか,応用先は必ず数学以外の自然・社会科学のどれかになります.だからモチベーションがわかりづらいんですよね.
数学書ではなくて,医療統計の本を探した方がわかりやすいのかもしれませんけど.
良いモチベーションが見つかればおもしろいと思えるのかもしれませんが.
今日取り上げたこの本は,かなり具体例が多くてその点良い本だと思います.