パンの木を植えて

主として数学の話をするブログ

ロミオとジュリエットの恋愛問題

\[ %%% 黒板太字 %%% \newcommand{\A}{\mathbb{A}} %アフィン空間 \newcommand{\C}{\mathbb{C}} %複素数 \newcommand{\F}{\mathbb{F}} %有限体 \newcommand{\N}{\mathbb{N}} %自然数 \newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} %有理数 \newcommand{\R}{\mathbb{R}} %実数 \newcommand{\Z}{\mathbb{Z}} %整数 %%% 2項演算 %%% \newcommand{\f}[2]{ \frac{#1}{#2} } \]

Strogatz『非線形ダイナミクスとカオス』より,演習問題 5.3 に挑戦していきます.

\[ %%% 黒板太字 %%% \newcommand{\R}{\mathbb{R}} \newcommand{\C}{\mathbb{C}} \newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} \newcommand{\Z}{\mathbb{Z}} \newcommand{\F}{\mathbb{F}} \newcommand{\N}{\mathbb{N}} %%% カリグラフィー %%% \newcommand{\calf}{\mathcal{F} } \newcommand{\calg}{\mathcal{G} } %%% 引数を取るもの %%% \newcommand{\f}[2]{ \frac{#1}{#2} } \newcommand{\im}{\operatorname{im} } \]

問題のあらまし

男女の恋愛の行く末を,簡易的な数理モデルを適用して予測しましょうという問題です.

2人の男女がいて,それぞれの男女に固有の性格のようなものがあります.

どのような性格の組合せのときに,2人の関係が最終的にどのように落ち着くのかを考えます.

なんだかふざけた問題設定ですが,実際これは著者の Strogatzさんが学生の興味を引くために考えたモデルのようです.つまりこのモデルの目的は恋愛を解析することではなく,2次元線形系という数学的対象に慣れることだと思われます.そこは要注意です.


もう少し詳しく問題設定を説明します.

登場人物はロミオとジュリエット.

時刻 $t$ におけるロミオのジュリエットへの好意の度合いを $R(t)$ とおき,

時刻 $t$ におけるジュリエットのロミオへの好意の度合いを $J(t)$ とおきます.

まあ次の図を見てください.(ちょっと小さくて見づらいかな?ごめんね)

そうしておいて,2人の感情はお互いに対する好意だけによって決まると仮定し,次の連立微分方程式

$$ \dot{R} = a R + b J $$ $$ \dot{J} = c R + d J $$

が満たされるとします.

もちろんこれは仮定です.実際には外部からの攪乱要素があるかもしれませんが,いったんこれで近似しましょうと言っています.

このとき係数 $a,b$ はロミオの性格を表していると解釈することができます.同様に,係数 $c,d$ はジュリエットの性格を表しています.

2人の性格の組合せによって,恋の行く末は変わっていきます.それを解析してみましょうというのがこの問題の設定です.

よろしいでしょうか?

問 5.3.1

$\dot{R} = a R + b J$ の,$a,b$ の符号で決まる4タイプの恋愛のスタイルのそれぞれに名前を付けよ.

Strogatz 『非線形ダイナミクスとカオス』演習問題5.3.1

ロミオの性格の分類をしなさいという問題です.実際には $a$ と $b$ の絶対値の大きさも重要である可能性がありますが,とりあえず正負だけで分類せよといっています.

正負の組合せは

  1. $a$ が正で $b$ も正

  2. $a$ が正で $b$ が負

  3. $a$ が負で $b$ が正

  4. $a$ が負で $b$ も負

の4通りあります.

まず1つめ,$a$ が正で $b$ も正のとき.$a$ が正なのでロミオは熱しやすく冷めやすいタイプです.自分の感情に拍車をかけるので,恋が高まっているときにはますます燃え上がり,そして嫌いになり始めると幻滅も速いです.そして $b$ が正なので,ロミオは素直です.ジュリエットが自分を好きなら,自分もジュリエットを好きになります.逆もしかりです.「情熱的」とでも評したいところですが,本文では「はりきり屋」と言われているのでそちらに従っておきましょうか.

次に2つめ.$a$ が正で $b$ が負のとき.$a$ が正なので熱しやすく冷めやすいタイプだというのは前と同じです.先ほどと違うところは,今度は $b$ が負だということです.つまりロミオは,相手が自分を求めれば求めるほど,自分の感情にブレーキをかけてしまう慎重なタイプだということになります.しかし「慎重派」は本文で別の意味に使われていますので,ここでは「移り気」としておきます.

次に3つめ.$a$ が負で $b$ が正のとき.$b$ が正なので,ロミオは素直なタイプです,しかし今度は $a$ が負なので,ロミオは自分の感情の高ぶりにブレーキをかけようとします.これを慎重派としましょう.

次に4つめ. $a$ が負で $b$ も負のとき.かなり天邪鬼な感じがするひとです.自分の感情の高まりを常にセーブしようとし,かつ自分を好きなひとを嫌いになり,相手が引き下がると逆に好感が高まる….そういうタイプです.そのまま天邪鬼としましょう.


問 5.3.2

$\dot{R} = J, \dot{J} = - R + J$ により記述される恋愛事情を考えよう.

考えていきましょう.

式の意味を忘れているかもしれないので,絵を再掲しておきます.


問 a

(a) このロミオとジュリエットのそれぞれの恋愛志向性の特徴を述べよ.

まずロミオ君から行きましょう.

$\dot{R} = J$ なので,$R$ の項がありません.つまりロミオ君のジュリエットへの恋心は,ジュリエットの反応だけで決まっています.さらに,ジュリエットがロミオを好きなら,それに応じるようにロミオもジュリエットが好きになります.すごく素直な子です.騙されやすいタイプかもしれません.

次にジュリエット.

$\dot{J} = - R + J$ です.$R$ の係数がマイナスであることが気になります.ロミオがジュリエットのことを好きになると,途端に幻滅し始めるようです.簡単に手に入る男はつまらないと思っているタイプです.


問 b

原点にある固定点の安定性を分類せよ.この安定性は恋愛事情に関して何を意味するか?

5章2節の「線形系の分類」に従えばすぐに解けます.

まずは係数行列を $A$ とします.

これは線形系なので実際に解くことができますね.解いてしまいましょう.そのために $A$ の固有値と固有ベクトルを求める必要があります.

実際に計算して結論まで書いた図を次に示しました.

ポイントは,固有値を $\alpha$ とし,$\alpha$ に属する固有ベクトルを $v$ とするときに $v e^{\alpha t}$ が($t$ の関数として)特殊解になっているということです.

この場合,固有値は複素数であるため,固有解はありません.スパイラルになります.固有値の実部が正であるか負であるかによってスパイラルの安定性が変わり,今回は正なので不安定スパイラルになります.

今回は丁寧にやりましたが,係数行列 $A$ の行列式とトレースさえわかれば安定性がわかります.


恋愛事情に関していえば,愛憎うずまく修羅場が顕現することがわかります.

2人は離れたり惹かれあったり憎みあったりを繰り返します.そして繰り返すたびに激しくなります.

さすがに無限大に発散するわけはないと思うので,その前に仮定の微分方程式が満たされなくなるはずです.そのときに相図のどこに解があるのかは予測できませんが,どちらかがどちらかを激しく憎んでいるか,あるいは激しく愛しているはずであることはわかります.

問 c

$R(0) = 1, J(0)=0$ として,$R(t)$ および $J(t)$ を $t$ の関数として描け.

これはおそらく陽に求めよという意味ではなくて,スパイラルの絵を描けという意味だと思います.適当に点をとってその点におけるベクトル場の向きを求めたらいいでしょう.

関数として陽に求めることにも挑戦しましたが,けっこう面倒です.