パンの木を植えて

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数学書を読んでいく - 代数多様体の次元をどう定義するか

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\[ %%% 黒板太字 %%% \newcommand{\R}{\mathbb{R}} \newcommand{\C}{\mathbb{C}} \newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} \newcommand{\Z}{\mathbb{Z}} \newcommand{\F}{\mathbb{F}} \newcommand{\N}{\mathbb{N}} %%% カリグラフィー %%% \newcommand{\calf}{\mathcal{F} } \newcommand{\calg}{\mathcal{G} } %%% 引数を取るもの %%% \newcommand{\f}[2]{ \frac{#1}{#2} } \newcommand{\im}{\operatorname{im} } \]

ここしばらく演習問題解く(解けるとは言ってない)回が続いたので,数学書を読む回をやっていこうと思います.

読むのは,Cox, Little, O'Shea 『Ideals, Varieties, and Algorithms』にします.

この本は版元のSpringerのページからDLしてあります.

でもいま手元に日本語版(ただし第2版に準拠してるのでちょっと古いです)があるので,せっかくなので日本語版を読んでいきます.

9章 多様体の次元

代数多様体 $V$ が与えられたときにその次元 をどう定義すべきか?という問題を考えていきます.

次元という言葉は,線形代数でも出てきました. $k$ を無限体だとして,$k^ 2$ は2次元のベクトル空間だとか,そういう話がありました.

位相空間論でも次元の話はでてきますが,今回は位相空間論的な次元の話はあまり関係がないっぽいです.(この本が要求する予備知識から判断してます)

本書では,線形代数における次元概念を拠り所にして代数多様体の次元を定義していきます.


§1 単項式イデアルが定義する多様体

いきなり一般の多様体の次元を定義するのはちょっと唐突だということで,まずは単項式イデアルによって定義される多様体の次元を定義していきます.

ここで単項式イデアルというのは,ある単項式によって生成されるイデアルのことです.

たとえば $I = \langle x^ 4y^ 2, x^ 3 y^ 4 \rangle$ は単項式イデアル.パッと見単項式で生成されていなくても,単項式イデアルである可能性がありますが,まあ気にしないでください.

「単項式イデアルによって定義される多様体」って何?と思われたかもしれませんが,要するに $x$ 軸とか $y$ 軸とか $xy$ 平面とか,座標部分空間の有限個の和集合で表されるような多様体のことです.

たとえば単項式イデアル $I = \langle x^ 2y, x^ 3 \rangle \subseteq k[x,y]$ で定義される多様体は $y$ 軸です.(つまり $x=0$ で定義される座標部分空間)

つまり,どういうことか?

単項式イデアルで生成されるような多様体の場合は,線形空間の和集合になっているわけですから,線形代数的な次元の定義がそのまま流用できます.

すなわち以下のように定義することができます.

$V$ を,$k^ n$ の有限個の線形部分空間の和集合であるような多様体とする.このとき $V$ の次元を,部分空間の次元のうち最大のものと定義し,$\dim V$ と書く.

射影空間の中の多様体を考える場合は,射影線形部分空間の次元の最大値として同様に定義します.


§2 単項式イデアルに含まれない単項式

単項式イデアル $I$ が与えられたときに,$I$ に含まれていない全次数が $s$ 以下の単項式の個数 $p(s)$ を計算したり,その性質を考えたりしようという話です.

なんだかややこしいですね.

「$I$ に含まれていない単項式の個数を求めよう」という問題設定の方がシンプルなんですけど,でもそれだと「無限個ある.以上!」という自明な解答が出てき過ぎます.大雑把すぎるんです.そこで粒度を上げるために「全次数が $s$ 以下の単項式の個数」という言い方をしています.個数ではなく増大度を考えることで,より精密な解析が可能になるわけです.

さっきまで次元の話をしていたのに,なんだか唐突だなあ.次元の話どこいった?という感じがしますが,これは次のセクションの準備です.だから次のセクションまで,このセクションの真の意図はわかりません.

そういうわけなのでいったん飛ばします.


§3 ヒルベルト関数と多様体の次元

このセクションで§2の伏線が回収され,一般のイデアル $I$ によって定義された多様体 $V(I)$ の次元の定義が行われます.

具体的には,イデアル $I$ のHilbert関数という多項式が定義されまして,多様体 $V(I)$ の次元をこの多項式の次数で定義します.

Hilbert関数とはなんぞやという話になるわけですが,ここで§2の伏線が回収されます.つまり「$I$ に含まれていない単項式の個数の増大度」です.

ここで,単項式イデアルとは限らないイデアルを考えていることによる障害が生じます.たとえば $I = (x^ 2 - y^ 2)$ とすると,$x^ 2$ と $y^ 2$ はともに $I$ に含まれていませんが,差が $I$ に含まれるので同一視したい気持ちがあるわけです. そこで商環を考えることにします. つまり多項式環 $A = k[x,y]$ をイデアル $I$ で割った環 $A/I$ を考えることにすればよさそうだということです.

ただこれだけだと次数が $s$ 以下という条件が拾えませんね.

そこで $I_{\leq s}$ を $I$ に属する,全次数が $s$ 以下の多項式の集合とします.これは $k$ 線形空間になっています.さらに $A = k[x_1, \dots , x_n]$ に対して $A_{\leq s}$ を全次数が $s$ 以下の $A$ の元の全体とします.

$A_{\leq s}$ は $I_{\leq s}$ を含む線形空間で,$s$ を固定するごとに有限次元になっていますので,商ベクトル空間 $A_{\leq s} / I_{\leq s} $ の次元が計算できます. それを $I$ のアフィン・ヒルベルト関数と定義します.単項式イデアルのときと少しやり方が違いますが,これも「$I$ に含まれない単項式の数を数えている」ことでは同じことです.

なお「アフィン」とついているのは,射影空間の場合には異なる定義をするからです.


アフィン・ヒルベルト関数の計算方法が気になるところですね.

単項式イデアルの場合は§2でやった方法で計算ができます.(本稿では省略しましたけど)

一般のイデアルの場合は,次の Macauley による定理を使って単項式イデアルの場合に帰着します.

$I \subseteq k[x_1, \cdots , x_n]$ をイデアル,$>$ を $k[x_1, \cdots , x_n]$ 上の次数付き順序とする.すると,単項式イデアル $\langle LT (I)\rangle$ は $I$ と同じアフィン・ヒルベルト関数を持つ.

したがって一般の場合にも計算が可能です.


これで準備ができたので,次元の定義を終わらせてしまいましょう.

アフィン多様体 $V \subseteq k^ n$ の次元を,対応するイデアル $I$ のアフィン・ヒルベルト多項式の次数として定義し,記号で $\dim V$ と表す.

この定義における「対応するイデアル $I$」というのは $V(I) = V$ を満たすイデアルのことです.このようなイデアル $I$ の取り方は複数通りありうるので,well-defined であるかどうかがまず気になります.

しかしヒルベルト多項式(ヒルベルト関数とは異なる概念ですが,面倒なので同一視します)は $I$ に対するものと $\sqrt{I}$ に対するものが一致します. もしも $V(I_1) = V(I_2)$ ならば $I_1$ と $I_2$ の根基は一致するので,$I_1$ と $I_2$ のアフィン・ヒルベルト多項式も一致します.ですから,この定義は well-defined です.

§1でやった「部分線形空間の次数の最大値で定義する」というアプローチと整合性が取れているかどうかが気になりますが,これも大丈夫です.ちゃんと一致しています.

感想

ヒルベルト多項式は多項式なので,次数以外にも零点の情報とかも持っています.

にもかかわらず次数だけを取り出してしまって後は捨てるというのはなんだかもったいないような気がします.あるいは,回りくどいと言っても良いです.

もっと直接的に次元を定義する方法があってもよさそうなものですが,どうなんでしょう.


本当は第9章はもっと続くのですが,今回は第3節までで終わりにしたいと思います.

文字数的にもね.結構長文になってしまいましたし.

続きはまた後ほどやる予定です.