私が前勤めていた大阪の某会社に、N さんという先輩がいたのですが、その人の口癖の一つが「そういうこともあります」でした。
字面からちょっとわかりにくいのですが、これは慰めの言葉です。私が git で誤操作をして他人のコミットを吹っ飛ばしてしまったときとか、私が転職面接に失敗したときとかにこういう言葉をかけてくれた気がします。これいい言葉だと思うんですよね。
慰めの言葉というと「気にしないで」とか「元気出して」というのが定番だと思うのですが、こういった言葉はすべて相手の感情をコントロールしようとする表現になっていて、相手の感情を否定しているのであまり優しさを感じないんですよね。結局自分本位で、「自分の視界に落ち込んでる奴がいるのが気になる」というメッセージを発してしまっているというか。よくある言葉なのでそこまで深読みするのはやりすぎなんですけど。でも、慰めというのは相手を元気にすることではなく、悲しんでいることを許容することから始まるべきだと思うので、私にはちょっと受け入れられないところがあります。
「大丈夫だよ」という言葉をかけることもよくあります。これは大丈夫であるという明確な根拠とともに使われ、相手を安心させる言葉ですね。これもよくある表現で私も使うんですが、これは相手が悲しんでいるに違いないと勝手に推測しているのがリスキーであるとともに、特定の考え方を主張して相手を納得させようとしているという点でやはり相手をコントロールしようとしており、理屈なんか聞きたくないときにはかけられたくない言葉かもしれません。
「そういうこともあります」は、その点何も指図をしていなくて、それがいいですね。単に事実を述べているだけで、相手のリアクションを指定しない。「ほんとうに悲しい」と返答することもできるし、「そういうこともあるよね」と返しても良い。
また、「そういうこともあります」は情報量がなく、ただ事実を述べているだけです。これも良いですね。反論しようという気持ちにならない。理屈なんて聞きたくないという気持ちだったとしても、「そういうこともある」といわれるとシンプルに事実と向き合う気持ちになりますね。
すごく洗練されている。えらい言葉ですね。先輩もさすがですよ。
(以下は有料部分になっていますが、お礼が書かれているだけです。)