last updated: 2024-03-03
前提知識
初等整数論を知っている必要があります.代数的「整数論」なのですから,特に意外ではありませんね.
すべてではありませんが,後の方になると複素解析が絡んできます.これは意外かもしれません.代数体 $K$ に対して,Dedekindゼータ関数 $\zeta_K$ というのを考えるからです.これにより,Dirichletの類数公式を証明することができます.
「環論は必要ないのか?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません.環論については,本稿では代数的整数論を学びながら同時並行で学ぶものとしています.なぜそうするかというと,環論は分量が多いので動機がわからないまま勉強していると途中で嫌になってしまうからです.
概要
代数的整数論というのは,代数体と呼ばれる体とその整数環についての一般的な理論です.ここで代数体というのは,有理数体 $\mathbb{Q}$ の有限次拡大体のことを言います.要するに,超越数ではない複素数 $α \in \mathbb{C}$ によって $K = \mathbb{Q}[α]$ と表せるような体 $K$ のことです.
有名なFermatの最終定理
の証明を模索する中で発展してきた分野でありまして,多項式の整数根を調べる分野である Diophantus方程式論 と深い関連があります.
なぜ多項式の「整数点」を考えているにも関わらず有理数でもないような数を考えているかというと,それは多項式を因数分解したいからです.
Fermat の最終定理に現れる多項式 $X^ n + Y^ n$ も,複素数の範囲なら因数分解できます.因数分解ができれば,素因数分解の存在と一意性(算術の基本定理ともいいます)を使うことができて,問題に取り組みやすくなります.
しかしながら複素数を加えたことによって素因数分解の一意性はしばしば破綻しますので,そこでイデアルとDedekind環という概念が導入されたのでした.
文献
Jarvis『Algebraic Number Theory』
代数的整数論とタイトルに銘打っている本の間でも難易度はさまざまですが,この本は入門書です.不定方程式論という動機を常に意識しつつ,代数体の理論を展開していくというスタイルのをとっており,大変にわかりやすいです.
Number Field Sieve(数体篩法)を紹介してくれているのも良いですね.
円分体とFermatの最終定理の関連の話をしているほか,類数のゼータ関数による明示公式の話も入っています.逆に p進数の話や完備化の話はあまり詳しく載っていないようです.
注意:私は最後まで通読したわけではありません.
Lang 『Algebraic Number Theory』
400ページ足らずの中に膨大なトピックを詰め込んでいる本です.Galois理論やFourier解析を知っていることを前提に書かれており,最終的に類体論まで駆け足で到達してしまうので,この時点の予備知識で通読するのはかなり厳しいでしょう.
辞書としては有用かもしれません.
注意:私は最後まで通読したわけではありません.
Neukirch『Algebraic Number Theory』
有名な代数的整数論の教科書.Langの本よりさらに分厚く,600ページ弱あります.Localな類体論とGlobalな類体論が両方載っており,類体論の勉強をする人はよく読んでいる印象があります.
注意:私は最後まで通読したわけではありません.
関連記事
このブログの中にある記事で,ここに来られた方が興味を持ちそうな記事を手動で紹介します.
Cox の『Primes of the form $x^ 2 + ny^ 2$』 のイントロをもとに,類体論によってどういう具体的な問題が解けるようになるかという話をしている記事です.
代数的整数論は,不定方程式論あるいはDiophantus方程式論を中心的な動機とする分野です.したがって,楕円曲線論とのかかわりも深いです.このSilverman&Tateの本は,有理数体上の楕円曲線を扱っていて,代数的整数論を知らなくても読めるように書かれた入門書ですが,楕円曲線論の概要が書かれています.この本は self-contained ではないので代数的整数論を既に学んだ方に敢えてオススメはしませんが,楕円曲線論とはどんな分野かふわっと知るには適しています.