パンの木を植えて

主として数学の話をするブログ

dual cone の性質 - Ex2.31(f)

\[ %%% 黒板太字 %%% \newcommand{\A}{\mathbb{A}} %アフィン空間 \newcommand{\C}{\mathbb{C}} %複素数 \newcommand{\F}{\mathbb{F}} %有限体 \newcommand{\N}{\mathbb{N}} %自然数 \newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} %有理数 \newcommand{\R}{\mathbb{R}} %実数 \newcommand{\Z}{\mathbb{Z}} %整数 %%% 2項演算 %%% \newcommand{\f}[2]{ \frac{#1}{#2} } \]

唐突ですが好きなゲームの話をします.なんとなく思い出して懐かしい気持ちになったので.

私は少し前にプレイした新約・帽子世界というフリーゲームがとても好きです.


とても良くできたゲームなんですよ.作者様に投げ銭できないことがもどかしいくらい.

まず主人公が6人いて,誰を選んでも同じ世界の中で異なるストーリーが展開されます.全員分のストーリーをクリアすると,7人めの主人公(ヨウコさん)が解放されます.

そのヨウコさんの話がまたよくできていて,6人全員のストーリーが同時進行する中で,6人全員を救うために立ち回るという筋書きになっています.カタルシスが味わえるようになってるわけです.

ゲーム性もすごくおもしろいんですよね.章ごとのストーリーとラスボスの性質がリンクしていて,ただ強いだけじゃないボス戦が味わえるようになっています.

特に魔トリョーシカ(ドーラ編のラスボス)戦が印象に残っていて……って,きりがないのでこの辺でやめておきますが.

ゲームってやると頭痛くなるし睡眠時間もなくなるんですけど,おもしろいやつは気にせずやっちゃいますね.


それでは今回も Boyd & Vandenberghe『Convex Optimization』をやっていきます.

演習問題2.31(f) をやっていきます.


問題文

Let $K^*$ be the dual cone of a convex cone $K$, as defined in (2.19).

Prove the following.

(a) $K^*$ is indeed a convex cone.

(b) $K_1 \subseteq K_2$ implies $K_2^* \subseteq K_1^*$.

(c) $K^*$ is closed.

(d) The interior of $K^*$ is given by $\textbf{int } K^* = \{ y \mid y^Tx > 0 \text{ for all } x \in \textbf{cl } K \}$.

(e) If $K$ has nonempty interior then $K^*$ is pointed.

(f) $K^{**}$ is the closure of $K$.

(g) If the closure of $K$ is pointed then $K^*$ has nonempty interior. 『Convex Optimization』 Ex2.31


問題の背景

双対錐(dual cone) の定義を紹介しておきます.

錐(cone) $K$ に対して,その双対錐 $K^*$ を

$$ K^* = \{ y \mid x^T y \geq 0 \text{ for all } x \in K \} $$

によって定義します.


これは,線形代数における直交補空間の概念の一般化になっています.直交補空間は,線形空間 $V$ に対して

$$ V^{\perp} = \{ y \mid v^T y = 0 \text{ for all } v \in V \} $$

によって定義されます.線形空間は $v \in V \Rightarrow -v \in V$ を満たすので,この2つの定義は線形空間に対しては一致します.


後で最適化の理論を本格的に展開する際に,双対錐の概念が重要になるようです.


回答

この問題はかなり難しかったです.


定義通りに示そうとすると,$\textbf{cl } K \subseteq K^{**}$ までは示すことができますが,逆を示すのが大変です.

試してみましたが,諦めました.


突破するには,本文に出てきた命題を使うのが良いと思います.次のような命題が登場していました.(section 2.3.1より)

$K$ が凸集合であるならば,$\textbf{cl }K$ は自身を含む半空間の共通部分に等しい.

ただし,この形では不十分です.

欲しいのは次の命題Aです.

$K$ が凸錐であるならば,$\textbf{cl }K$ は自身を含む斉次半空間(つまり原点を通る超平面が分離する半空間)の共通部分に等しい.

この命題があれば証明ができることは,次のノートで示します.緑色の蛍光ペンで下線を引いてあるところが,この命題Aを引用しているところです.


難しいのは,この命題Aを証明するところです.

まずノートを貼りましょう.

何をやっているのかを説明するのは難しいです.

ポイントは $K \subseteq \{ y \mid a^T y \leq 0 \}$ を示すところでしょうか.

$z \in K$ に対して,直接 $a^T z \leq 0$ を示すのではなくて,$K$ が錐であるということを用いて $\forall ε>0 \quad a^Tz \leq ε$ を示すということをやっています.

函数解析などでよくやるテクニックですが,人によっては見えにくいかもしれません.


感想

ようやくいくぶん非自明な問題を解くことができました.

ちょっと難しかったですね.この本の演習は全体的に難しめです.

残る問g ですが,これは問d を前提にしている気がするのでやはり飛ばします.