パンの木を植えて

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ヤコビ写像の核と平方剰余とはどれだけ離れているか - Ex12.3

\[ %%% 黒板太字 %%% \newcommand{\A}{\mathbb{A}} %アフィン空間 \newcommand{\C}{\mathbb{C}} %複素数 \newcommand{\F}{\mathbb{F}} %有限体 \newcommand{\N}{\mathbb{N}} %自然数 \newcommand{\Q}{\mathbb{Q}} %有理数 \newcommand{\R}{\mathbb{R}} %実数 \newcommand{\Z}{\mathbb{Z}} %整数 %%% 2項演算 %%% \newcommand{\f}[2]{ \frac{#1}{#2} } \]

就職してから,近所にあるなか卯にハイペースで通っています.

親子丼美味しいね.

なか卯の株買っちゃおうかしら.


それはそうと,今日も『A Computational Introduction to Number Theory and Algebra』の演習問題をやっていきます.

書影を出すためにAmazonのリンクを貼っていますが,この本はPDF版が無料で配布されています.興味のある方はぜひどうぞ.

今回やるのは演習12.3です.

問題文

Let $n$ be an odd, positive integer, and consider the Jacobi map $J_n$.

(a) Show that $(\mathbb{Z}^*_n)^2 \subset \ker J_n$.

(b) Show that if $n$ is the square of an integer, then $\ker J_n = \mathbb{Z}^*_n$.

(c) Show that if $n$ is not the square of an integer, then $[\mathbb{Z}^*_n : \ker J_n]=2$ and $[\ker J_n : (\mathbb{Z}^*_n) ^2 ] = 2^ {r-1}$, where $r$ is the number of distinct prime divisors of $n$.


この問題の背景

平方剰余の相互法則のところで,ルジャンドル記号 $(a \mid p)$ というのを定義しました.

これは奇素数 $p$ と $p$ で割れない整数 $a$ とに対して,$a \equiv x^ 2 \mod p$ を満たす $x$ が存在するなら $1$ という値をとり, 存在しないなら $-1$ という値をとるものとして定義されました.

なお$a$ が $p$ で割れるときはゼロです.

要するに,法 $p$ は素数に限定されていたわけです.


ヤコビ記号というのは,ルジャンドル記号から法が素数という制約をなくしてしまったものです.

奇数 $n$ と整数 $a$ に対して,ヤコビ記号 $(a \mid n)$ は $n$ の素因数分解を使って定義されます.具体的には $n= q_1 \cdots q_k$ ならば

$$ (a \mid n) = (a \mid q_1) \cdots (a \mid q_k) $$

です.ただし右辺はルジャンドル記号です.


このように定義しても,ルジャンドル記号が持っていた「積を保つ」とか「相互法則が成立する」といった良い性質は保たれます.それはめでたいのですが,「平方剰余であることを検知できる」という性質は保たれません.

つまりヤコビ記号の値が $1$ だからといって,もはや平方剰余であるとは言い切れません.

では,平方剰余であることと,ヤコビ記号の値が $1$ であることはどの程度離れているのでしょうか?というのが今回の問題の言っていることです.


回答

それでは回答といきましょう.

まず問aですが,これはヤコビ記号が積を保つことと,$(-1)^ 2=1$ であることから従います.

次に問b. これも問aと同様です.

残る問c については少し難しいです.


まず前半から.ノートを直に貼ってしまいます.

$n$ を平方数 $\times$ それ以外と分解して,後は中国式剰余定理に投げることで示しています.$n$ が平方数ではないという仮定も使っています.


次に後半部分.

最初は異なる素因数の数 $r$ に対する帰納法で示そうとしていたのですが,そのアピローチは頓挫しました.示そうとしているものの形が評価しづらいので,まずそれを評価しやすい形に直すのが先決だろうと思って方針を変えたところ,すぐに解くことができました.

$\phi$ という群準同型を定義するのがポイントでした.これにより示したいものは $\phi$ の余核の位数となって,準同型定理が使えるようになってだいぶ楽になりました.

途中でヤコビ写像が全射であることを使っていますが,これは非自明ですね.前半部分から従うのですけど.

$n$ が奇数という仮定はここと,あと単数群が巡回群になるというところで回収しています.

以上です.


感想

ヤコビ写像が $1$ だからといって平方剰余とは限らないと言われて理解したつもりになっていましたが,どの程度離れているかを定量的に評価できるというのには気づいていませんでした.

しかも証明けっこう簡単….なんか悔しいですね.