今日もシルヴァーマン『A Friendly Introduction to Number Theory』の演習問題をやっていきます.
邦訳がこちら.
原著はこちら.
問題文
この章で私たちは $m$ を法とした $b$ の $k$ 乗根をどのように解くかについて述べた.しかし,あなたはおそらく $b$ の $k$ 乗根が1つよりも多くあり得るのか自問したことだろう.実際,それは可能である!たとえば,$a$ が $m$ を法として $b$ の平方根であれば,明らかに $-a$ も $m$ を法として $b$ の平方根になっている.
(a) $b,k,m$ を
$$ \gcd(b,m) = 1, \quad \gcd(k,φ(m)) = 1 $$
を満たす整数とする.$b$ は $m$ を法としてただひとつの $k$ 乗根をもつことを示せ.
(b) 代わりに $\gcd(k,φ(m)) > 1$ とせよ.$b$ は $m$ を法として $k$ 乗根を持たないか,あるいは少なくとも2つの根を持つことを示せ.(現時点までに扱ってきた題材では,この問題は難問である.)
(c) $m=p$ が素数のとき,例をいくつか調べ,$p$ を法とした(少なくとも1つはあると仮定したときの)$b$ の $k$ 乗根の個数の公式を見つけることに挑戦せよ.
問b の回答
難問だと言われるとちょっと怖いですが,やっていきましょう.
前回同様に単数群 $(\mathbb{Z} / m \mathbb{Z})^{\times}$ のことを, $\mathbb{Z}_m^*$ と書くことにします.
対偶を示すことにしましょうか.
ある $b \in \mathbb{Z}_m^*$ について $φ^ {-1}(b) = { a }$ だと仮定します.ここで示したいことは $\gcd(k,φ(m)) = 1$ です.
$v \in \ker φ$ が与えられたとします.
$\varphi(va) = b$ なので $va \in φ^ {-1}(b)$ です.
$φ^ {-1}(b) = { a }$ だと仮定したので,$va = a$ です.
よって $v=1$ です.
ゆえに $\ker φ = 1$ であり,$φ$ は単射です.
$φ$ の値域と定義域は同一の有限集合なので,とくに $φ$ は全単射です.
したがって $X = \mathbb{Z}_m^*$ としたとき,$φ \in \mathrm{Aut} X$ です.(ただし $\mathrm{Aut}$ は自己同型群です)
$φ$ の $\mathrm{Aut} X$ における位数を $q$ とします.
$φ$ の $q$ 回の合成 $φ \circ φ \circ \cdots \circ φ$ が恒等写像に等しいので,すべての $x \in \mathbb{Z}_m^*$ について $x^{k^ q} = x$ が成り立つ.つまり $K := k^ q -1$ とおけば $\forall x \quad x^ K = 1$ です.
ここで次の定理を使います.証明に関しては,『A Computational Introduction to Number Theory and Algebra』(この本は無料だよ!)の定理7.28などを参照のこと.
(1) $m = 2^ e$ のとき,$e=1,2$ ならば巡回群.
(2) $m = 2^ e$ のとき,$e \geq 3$ ならば $\mathbb{Z}_2 \times \mathbb{Z}_{2^ {e-2}}$ と同型.
(3) $m$ が奇素数のベキならば巡回群.
$m$ の素因数分解が $m = 2^ e p_1^ {e_1} \cdots p_r^ {e_r}$ だったとします.
$\mathbb{Z}_m^*$ の元がすべて $K$ 乗すると $1$ になることから,$φ(p_i^{e_i})$ は $K$ を割り切らなければなりません.なぜかというと,奇素数部分はすべて巡回群だからです.
$φ(p_i^{e_i}) = p_i^{e_i -1} (p_i -1)$ なので $K$ は偶数で,とくに $k$ は奇数です.また,$k$ が $φ(p_i^{e_i})$ で割り切れることもありえません.
したがって $\gcd(k,φ(m)) = 1$ が言えました.
感想とまとめ
奇素数のベキについての単元群の構造定理を使ってしまったので,確かにあんまり簡単ではないですね.この本の演習問題やっぱり難しいの多いですわ.
私は群論とか環論を知ってるから「たのしー」って思えるけど,高校生とかだったら理不尽だ!って感じるかもしれないですね.