おはようございます.
今日は『Ideals, Varieties, and Algorithms』を読んでいきます.
今回読んでいくのは 9.6 節です.
9.6 Dimension and Nonsingularity
節タイトルの意味は,「次元と非特異性」です.
非特異という単語はここで初めて出てきたかもしれません.特異点という言葉があって,特異じゃない点が非特異点です.
特異というのは,「接線が一意に引けない」ということで,ちょっと扱いが難しい点というイメージです.
接空間とその計算方法
曲面 $V \subseteq \mathbb{R}^ 3$ を考えます.既に見てきたように,$V$ の次元は(3次元空間に埋め込まれた曲面なので)2です.
次元が2ということはどういうことかというと,ある点 $p \in V$ を取ると,点 $p$ の十分近い近傍では多様体 $V$ は平面のような形をしているということです.つまり $p$ において接する平面が,$V$ の良い近似になっていると.
2次元の場合は高校で習いました.関数のグラフというのは,曲線 $V(y - f(x))$ だと見做すことができます.これの点 $(p.f(p))$ における接線というのは,この曲線を点 $p$ の近くで最もよく近似する直線でした.だから,それを素直に高次元にしただけです.
点 $p$ の周りの多様体の振る舞いを捉える概念を考えてみましょう.
まずは多項式の線形成分 (linear partという言葉を適当に訳しました) を定義します.
これを使って,接空間(tangent space) を定義します.
この定義が自然であることはいいでしょう.先ほどの,グラフ $V = V(y - f(x))$ の接線の定義を一般化しただけです.
微分は,もちろん形式的な微分を意味しています.別に極限を取っているわけではありません.
次に気になることは,接空間が計算できるかどうかです.たとえば $I(V)= \langle f_1, \cdots , f_s \rangle$ と生成されているとして,$V$ の接空間をこうした定義イデアルの生成元たちで表すことができるでしょうか?
接空間の定義は結構よくできていて,次が成り立ちます.
これがなぜ成り立つかというと,微分だからLeibnitz則が成り立っていて,積の微分をうまいことアレすることができるからですね.
特異点
次元という概念を各点 $p$ で定義することができます.
これを使って,特異点(singular point)とか非特異点を定義します.
接空間というのは,その点において多様体を近似するものなので,$T_p(V)$ の次元は基本的に $V$ の次元に一致していて欲しいという気持ちがあります.これは $V$ が既約であれば実際にそうなっています.
$V$ が既約でない場合にも接空間の次元と元の多様体の次元が一致するようにするために,点 $p$ の周りの次元という概念を用意しました.
特異点 $p$ では,接空間の次元が $\dim_p V$ よりも真に大きくなっています.つまり接線の引き方が無数にあったり,接平面の選び方が無数にあったりするわけです.
これは次のように定理の形でまとめられています.
このとき次が成り立つ.
(1) $Σ$ はそれ自体アファイン多様体.
(2) $p \in Σ$ ならば $\dim T_p(V) > \dim_p V$.
(3) $Σ$ が $V$ の既約成分をまるごと含むことはない.
(4) $V$ の異なる既約成分 $V_i$ と $V_j$ に対して,常に $V_i \cap V_j \subseteq Σ$.
残念ながらこの定理の完全な証明は本書の範囲を超えているようです.本書では一般の場合の証明は Shafarevich『Basic Algebraic Geometry』や Kendig 『Elementary Algebraic Geometry』を参考にせよということになっています.
本書においては,多様体 $V$ が超曲面であるような特別の場合の証明がなされています.
ヤコビアン
先ほどの接空間の定義においては,多様体 $V$ の消去イデアル $I(V)$ を経由していました.しかし $V = V(f_1, \cdots , f_s)$ が与えられたとき $I(V)$ を計算するのは結構面倒なので,$I(V)$ を計算せずに特異点や接空間を求める方法があると望ましいです.
そこで,ヤコビ行列(Jacobian matrix) を定義します.
これに対して,次が成り立ちます.
このとき $p$ は非特異点であり,$p$ を含む $V$ の既約成分がただ一つ存在して,その次元は $n-r$ である.
この定理によれば,生成元 $f_1, \cdots ,f_r$ を注意深く選んでいれば,$I(V)$ を計算しなくても特異点を計算することがある程度可能になります.
この定理の証明も,本書では完全には与えられません.多様体 $V$ が超曲面であるような特別な場合に限って,証明されています.一般の場合については,Mumford 『Algebraic Geometry I: Complex Projective Varieties』(1981) に証明が書かれています.
この定理は,陰関数定理と仮定の部分がよく似ています.これは偶然ではありません.陰関数定理によれば,ヤコビ行列のランクが $p$ において $r$ であるならば,$V$ は点 $p$ の近傍で残りの $n-r$ 個の変数についての関数のグラフとして表現されています.したがって,次元が $n-r$ になるのはごく自然なことです.
多様体論でもこういう定理がありました.
感想とまとめ
多様体論(微分幾何とか位相幾何) との関連があらわになってきました.
多様体は「局所的にEuclid空間と同相であるような空間」として定義されますが,代数多様体は「多項式写像のゼロ点」として定義されます.
この2つの定義は一見して似ていないように見えるので,2つの対象は別物なのかな?と思っていましたが,どうもそんなことはないようです.
多様体をなんらかの自然な写像のゼロ点として定義することもできるんでしょうね,おそらく….しかしそれをするには,多様体をEuclid空間のような基礎空間に埋め込む必要があって,それを回避するために貼り合わせを使ったのではないでしょうか?(自信はない)
多様体との類似で考えると,いまの代数多様体の扱いが不十分であることもわかります.だって,$k[x_1, \cdots , x_n]$ を使って考えているということは,多様体論でいうとEuclid空間に埋め込んでいるようなものですからね….(これも適当に予測して書いていますが,たぶんそう)
適当な推測をいっぱい書いてしまいましたが.
位相幾何の方の多様体と,代数幾何の方の多様体との関連ってあまり学部の授業とか今まで読んだ本では強調されてなくて,私は全然理解できてなかったです.でも今回読んだ内容から,ちょっとその片鱗が見えてきた感じがします.
今後は,それを理解していくことを目標の一つにしようかと思いました.