はじめに
英語から日本語へ翻訳するときに,直訳調のダサい文章にならないようにするにはどういうところに気をつけると良いかが書かれている本です.
日本語と英語には文法構造からして大きな違いがあるので,その違いを把握することが自然な訳文を書く助けになると言っています.
なお記事タイトルにある概略というのは,「目次を章レベルで列挙して,それぞれに短いまとめの文章をつける」くらいの意味で書いています.短いまとめにとどまらずに,各章を貫くストーリーまで再現して1冊全体を通した姿がわかるように書くと「要約」 になる感じです.
目次
最初に目次を概観します.
翻訳者になるために
優れた翻訳とは
代名詞
数量詞
比較級と最上級
無生物主語 I
無生物主語 II
名詞句
順行訳
話法
レトリック
イディオム
肯定表現と否定表現
「は」「が」構文
まとめ 翻訳の深さ
これだけでは何のことやらという感じなので,もう少しだけ詳しく説明していきます.
3章 代名詞: 代名詞は隠す
I told him that !
あいつにそういってやったんだ
英語の文章には人称代名詞が頻出します.you とか,he/she/they とか.それぞれ「あなた」「彼,彼女,かれら」と訳してはいけないと書いてあります.なぜかというと,日本語では人称代名詞をあまり使わず,使ったとしても「あなた」「彼」等では文脈的に相応しくないことが多いからです.
4章 数量詞: 文の述語として訳す
some, few, little, all, each, every などの名詞を修飾して数量を表す言葉を,数量詞と言います.英語では名詞を修飾するのですが,日本語に訳す際には述語を修飾するように書き直すと自然になります.
たとえば
Some Chinese like sushi.
寿司が好きな中国人もいる.
の some は Chinese(中国人) を修飾していますが,翻訳する際にそのまま文法構造を対応させて「一部の中国人は~」などとするとぎこちなくなります.
5章 比較級と最上級: 「より」は名詞の後に
We need to have a deeper understanding of the issue.
問題の理解を深める必要がある.
形容詞の比較級を「より+形容詞」の形で訳すのは好ましくありません.「より」は助詞で,名詞の後につくものだからです.一般的に,比較級と最上級に相当する文法構造は日本語には無いので,その都度ぴったりくる日本語表現を見つけ出す必要があります.
6章 無生物主語I: 英語の主語を副詞的に訳す
Yesterday's hurricane killed 20 people.
昨日のハリケーンで20人が死んだ.
英語では無生物を主語にした他動詞構文が自然に現れますが,日本語ではめったにありません.そこで,日本語に訳す際には主語を差し替える必要があります.本書では,無生物主語文を訳す際の3つのルールが明示されています.
7章 無生物主語II
第6章の補足的な内容です.
8章 名詞句: 名詞句を「こと」として訳す
The introduction of the new technology increased the output.
新技術を導入したので,生産高が増えた.
英語は,日本語と比べると動作を名詞で表現する傾向があります.つまり,翻訳の観点から言えば,英語の名詞句を動詞に変換することが重要だということです.
9章 順行訳: 出来事の順序と訳文の順序を合わせる
The rocket will be traveling for six months before it reaches Mars.
ロケットは6か月飛行して火星に到着する.
英語では,関係代名詞などを使って「修飾語を後に」続けることができますが,日本語では「修飾語は前に」というルールがあります.したがって文法的な修飾関係に忠実に訳してしまうと,英語と話す順序が逆になってしまいます.
原文に無い言葉を(意味を変えない限り)追加してもいいので,話す順序が英文と一致するように訳した方が自然に聞こえます.
10章 話法: 英語の間接話法は直接話法で訳す
I asked Linda if she could come to the party.
リンダに「パーティーに来てくれますか」と聞いた.
英語で間接話法になっていても,日本語では直接話法で訳すことを検討しましょう.
注:「なぜ英語では間接話法を使用しがちなのか?」と私は疑問に思いましたが,本書にはそれは書かれていませんでした.
11章 レトリック: 意味だけを訳す
This relation ship is foundering.
私たちの関係は行き詰まっている.
当たり前ですが,日本語にそのまま置き換えて意味が通じなければ,意味が通じるように修正する必要があります.
12章 イディオム: 日本語のイメージに頼らず辞書を引く
Danny slept like a log.
ダニーはぐっすり眠った.
イディオムを理解するには,その言語の話者の背景にある文化まで理解することが必要です.そこまで訳文に反映することは無理なので,表現の仕方は違っても,同じ意味を表す日本語表現を探しましょう.
13章 肯定表現と否定表現
Stay seated on the toilet to activate the cleansing water.
便座に座らないと洗浄水は流れません.
英語では肯定文になっているものが,日本語に訳すときには逆の否定文にした方が自然であるということがよくあります.
注意: なぜそんな違いが生まれるのか,そもそもある言語が肯定・否定表現を好むとはどういうことなのかという疑問を私は持ちましたが,本書には書かれていませんでした.
14章 「は」「が」構文: 所有のhaveは「は」「が」構文で訳す
Annie has no worries.
アニーは悩みがない.
英語にはない日本語特有の統語パターンとして,「は」「が」構文があります.
たとえば「象は鼻が長い」などがそうで,「は」がついている名詞が主題で,「が」がついている名詞が主格になっています.
英語のさまざまな構文が,日本語では「は」「が」構文に対応しています.うまく訳せると思った時は使ってみましょう.
たとえば,英語における
所有の have
主語にある所有格
動詞 + er
時を表す表現
などは,「は」「が」構文でうまく訳せないか検討してみましょう.
15章 まとめ 翻訳の深さ
ユーモアをどう訳すかという話で締め括られています.
感想
本書の表紙には「認知言語学的発想!」と書かれています.しかし,「日本語と英語を比べてどう文法構造が違うか」という話が多かったので,どちらかというと日英対照言語学と言った方が近い気がしました.
この要約では目次に現れる事項に短い解説をつけましたが,この本の内容はまだまだこんなものではなく,詰め込まれた知識は膨大な量になります.さらに,演習問題(と解答)も付されていて大変に丁寧です.翻訳に興味のある方は買われると良いでしょう.その価値があると思います.
ところで私は,この本を読んでいて日本語の文法が頭に入っていないことを痛感しました.「日本語と英語がどう異なっているのかを知りたい」と思って読んでいたのですけど,そもそも母語である日本語自体,まだまだ理解できていなかったようです.
大修館書店の『日本文法小事典』とかを読もうかな?と思っているところです.