パンの木を植えて

主として数学の話をするブログ

これから数学の修士に進む人へ

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latest update: 2024.02.25

この記事では,これから修士へ進む人へ向けた(おせっかいな)アドバイスや,院での私自身の体験談を書こうと思います.「修士の異常な愛情」というタイトルにしようかとも思いましたが,なんとか思いとどまりました.

院試についてはここでは扱いません.院試については以下の記事を参照のこと.

私自身はただ一度経験があるというだけで,決してひとより優れた修士生活を送ったわけではないのですが,こういう情報も誰かの参考にはなるかと思ったので書き残しておきます.


進学と院生活

日常的なこと

院で何をするのかというと,私の研究室ではこんな感じでした.

  1. 論文を読むための基礎知識を身につけるべく,お勉強をする.分野によってこの期間の長さは異なる.離散最適化なら1冊読んだだけで十分ということもあるが,数論幾何とかだと修士全部を勉強時間に吸われてしまったりする.言うまでもないが,予備知識が少なくて済む分野の方が研究は始めやすい.あまり勉強し過ぎないように注意!

  2. 論文を読む.テーマは自分で決められるが,途方に暮れているなら先生からテーマがもらえる.

  3. 読んだ論文の内容をゼミで発表する.ゼミは1週間に1回だが,所属している学生の数が多いので回ってくる間隔自体は1か月以上開いていた.自分の番でないときにはひとの発表を聴く.

  4. 読んだ論文の内容を拡張・適用して指導教官と共著で論文を書く.完成したら国際会議に投稿させてもらえる.

あと,たまに開かれる学会や講演会に参加するというのもあります.講演を聴きながら,上手な講演だなと思ったらあとで真似できるようメモをとったり,下手な講演だなと思ったら二の舞にならないように注意して見たりします.

授業もありますが,卒業に必要な単位数はそう多くないので学部のときよりは楽だと思います.

研究室の選び方ですが,進学する前にHPを見て「過去に在籍した学生の論文」をチェックしてください.サーベイ論文が多かったり,日本語の論文が多かったりした場合は,そこに進学しても自分もそうなる可能性が高いです.論文を書ける(書かせてもらえる)かどうかはかなり指導教官の指導方針によるところが大きいので,参考にするとよいでしょう.

研究室によっては「ゼミの発表中はノートを見てはいけない.すべて記憶して話しなさい」と指導されることがあります.私のいた研究室ではそこまで要求されませんでした.この辺りのルールは研究室によって違うので,進学する前に確認しておくといいかもしれません.

研究者を目指す場合

研究者を目指す場合は,博士進学が必要です.次のようなルートをたどることになるでしょう:

  1. 修士(2年)

  2. 博士(3年)

  3. ポスドク(任期付きの職)

  4. 助教とか

以下,研究者を目指す場合に知っておくべきことを書きます.「警告しておきます」と言ってもいいでしょう.研究者になる道のりは厳しいからです.

年齢の問題

助教あたりまで進んでやっと研究者としての身分を手に入れたことになるので,まずそこに辿り着くまでにかかる年数が長いことが気になると思います.

博士は3年間と書いてありますが,3年で学位が取れずに5年くらい在籍することも数学科ではよくあります.そういうことがあれば,研究者になれるのはもう30代になってからということになってしまいます.

また,ポスドク期間に至ってはどれくらい長くなるかわかりません.すぐにパーマネント(任期なし)の職が見つかるかもしれませんが,そうではないこともあります.

お金の問題

基本的に修士と博士の期間は無給です.給料が出る研究室もありますが,それは例外です.

経済的な理由で研究が続けられないということがないよう,学振という制度がありますが必ずもらえるわけではなくて申請が必要です.

修士のうちから準備した方が有利であるため,博士進学するかどうかは早めに指導教官と相談して決めておきましょう.

学振が通らなかった場合,経済的にかなり厳しいことになります.学振が通らないことが決定的になった時点で,研究者をあきらめていったん私企業に就職することをお勧めします.お金がなくなると精神的に余裕がなくなってしまって,正常な判断力を失いがちだからです.

就職について

進学しない場合は,企業などに就職することになります.

おそらく多くのひとが辿る道でしょう.

就職と進学の違い

基本的に,私企業に就職する方が進学するよりもずっと楽です.

  • まず経済面で楽ですね.大学ではお金を払って勉強しなくてはなりませんが,企業では勉強しているだけでお金がもらえることがあります.*1 これは就職の大きな利点です.

  • また,拘束時間という面でも私企業の方が楽です.大学院に進学すると修士にせよ博士にせよ研究をすることになりますが,研究は非常に拘束時間が長い仕事です.ほとんど一日中といっても過言ではありません.それに比べると,企業での労働は一日8時間だけですし,休日や祝日もあるので楽と言っていいでしょう.

  • さらに,仕事に求められる水準も下がります.院生は特定専門分野に関して世界で一番詳しい人になることを求められますが,私企業ではそんなことはありません.

  • 院生の仕事は全て自己責任であり,自分の研究が進まなければどうにもなりません.詰みです.しかし,私企業においては,先輩に助けてもらったりすることができます.

たまに「自分は企業ではやっていけないのでは」と心配されている方がいますが,私企業というのは必ずしもそんなに恐ろしい場所ではありません.そこは心配しなくて大丈夫です.

数学科卒の就活

スケジュール

修論と求職活動を同時並行で進めると焦燥感がものすごく,高確率で心をやられてしまうのでお勧めしません.

内定を早めにもらうのがベストですが,間に合わないかもしれません.いったん修論に集中し,博士課程を中退して就職するという手もありますので自暴自棄にならないように.


職種・業界の選択

まず業界・職種を決める必要があります. 2023 年現在,数学科卒が数学の能力をある程度生かして就職する場合,職種は

  1. アクチュアリ(保険)

  2. クオンツ(金融)*2

  3. 機械学習・データサイエンス分野のエンジニア(情報)

  4. 暗号理論の研究開発エンジニア(情報)

  5. ブロックチェーンのエンジニア(情報)

などの選択肢があります.

昔は数学科卒は研究者にならなければ中高の教員くらいしか就職口がないと言われていましたが,今は全然そんなことありません.自信をもって求人を探していきましょう.

より詳しい情報については,ここに書いてもすぐに時代遅れになってしまいますので,あえて書かないことにします.それぞれの分野を専門にするエージェントがいると思いますので,相談してみてください.


就活を首尾よく進めるために

人の意見をよく聞く

当たり前ですが,教員や先輩の意見などをよく聞いて参考にしましょう.それが難しければ,動画などを見るといいでしょう.私が好きな動画を貼っておきます.


www.youtube.com

何かと掛け合わせる

数学単体で就職しようとすると研究職になってしまいがちです.研究職は求人が少ないので何か他の分野と掛け合わせることで,求人が多い分野にアプローチしましょう.私の個人的なおすすめはプログラミングを学んで情報工学と掛け合わせることです.

プログラミングは難しいと思っているかもしれませんが,数学ができるなら確実にプログラミングもできます.もし何から始めていいかわからず困っているなら CS50 などのオンライン授業を受講してみましょう.

なぜプログラミングがおすすめかというと,ソフトウェアエンジニアの世界は数学科と雰囲気が似ていて,馴染みやすいと思われるからです.

  • どちらも自主的な勉強が重要で,

  • 上下関係に厳しくなく,

  • 営業や接客などの客とのウェットなやり取りがありません*3

企業の人からも「数学系の人間は情報系と相性がいい」という印象があるようです.したがって情報系の企業には未経験で入社するハードルも低いので,もしどの業界にすれば良いか迷うなら検討してみてください.

根性が大事

自分に合った良い会社が見つかるかどうかは,確率の問題でもあります.確率が問題になっているのなら,ベストな対処策は一つしかありません.根性です.

何社に断られてもめげずに続けましょう.目安として,私が先輩に言われたのは10社でした.「10社に断られるまでは,自信をなくしてはいけない」と.業界を変えようかなとか悩むのはその後だと.

したがって,自然な帰結として,職探しのためにたっぷり時間が取れるようにしておいた方がよいです.時間が確保できなければ,試行回数を稼ぐこともできませんから.


アドバイス

警告

TeXはなるべく早く覚えるべき

TeX というのは,数式混じりの文章をきれいに書くための組版言語です.修士論文を書くためには必須であり,TeX がわからないまま修論の時期を迎えてしまうとにっちもさっちもいかなくなって詰むのでなるべく早めに習得しておきましょう.

TeXについての情報は検索すれば出てきますが,断片的な情報源が多いです.y. さんの『TeX講習会資料』は比較的よくまとまっています.

TeXの練習をするためには,自分の勉強した内容をまとめた文書を作って公開してみることがおすすめです.GitHubやGoogleDriveなどを利用すれば作ったPDFを手軽に公開することができます.

環境構築が面倒なのですが,Overleaf のようなクラウドサービスを利用すると楽です.いまからTeXを習得されたい方はローカルにAtomやVSCode等で環境構築をするのではなく,クラウドサービスを利用されることを勧めます.

ところで私が4回生の時分には研究室訪問でいろんな研究室を訪ねましたが,そのときにこんなやり取りがありました.

先生「TeXはできますか?」

わたし「経験はあるので大丈夫です」

先生「なら修論は書けますね!」

わたし(十分条件それだけっておかしくないか……?)

先生の言葉の真偽はともかく,こんな質問が出るということはおそらくTeXができなくて困る学生が毎年たくさんいるのでしょう.油断しないように.

なお,修論の発表時にスライドを使うので Beamer が使えるとなおよいです.PowerPoint でもなんとかなりますが,見栄えが劣ります.

iPad Pro/Air は必需品

iPad は便利です.正確には, iPad Air とか iPad Pro などの大きめのやつが便利です.かなり高価ですが,後で述べるように本代を浮かすことにも使えます.

正確には,iPad Pro と Apple Pencil と GoodNotes の3点セットが便利.

ちなみに,なぜ無印の iPad ではだめなのかというと,第2世代の ApplePencil に対応していないからです.Apple Pencil は第2世代以降のものにすべきです.第1世代の Pencil は充電の際に避雷針のように本体にぶっ刺す必要があり,したがって充電が切れやすいです.第2世代の Apple Pencil なら本体の横にくっつけておくだけで自動で充電されます.

具体的に,どのように iPad Pro/Air が役に立つかというと

  • デジタルノートとして使える.

  • 電子書籍を読むための端末として使える.

  • 電子黒板として使うことができ,オンラインゼミが可能になる.

という感じです.

私が院に進学したのはちょうど新型コロナが流行り始めたときだったためオンラインゼミを行うことが必要で,研究室から学生全員に iPad が貸与されました.もはや今の時代 iPad は数学科の学生にとって必須のものです.

追記:Apple 製品を強く推す文章になっていますが,電子書籍が読めて,電子ノートとしても使えるタブレット端末なら何でもいいです.好きなものを使ってください.

英語の電子書籍を読むべき

本(数学書)を入手するときには次の2つの変数に応じて,4つの選択肢があります.

  1. 日本語の本か,英語の本か

  2. 紙の本か,電子書籍(PDF)か

どれを選んでも良いように見えますが,私としては英語の電子書籍を読むことを強くお勧めします.

以下,理由を書いていきます.


なぜ日本語の本より洋書の方が良いのか

単純に,話者数の違いが大きいです.洋書は世界中の数学研究者と学生に読まれますが,日本語の本はそうではありません.したがって,ある程度以上に専門的な数学の本は,英語の本がほとんどを占めます.ここで「ある程度」というのは,おおむね線形代数や微積よりも高度というのが目安です.

実際私の経験からいっても,専門的な本は「英語の本と日本語の本と,どちらがいいかな?」なんて悩む余地がないくらい,洋書ばっかりです.


なぜ翻訳ではなく原著なのか

「洋書を原著で読まなくても,翻訳で読めば良いではないか」と思うかもしれません.確かに出版社と訳者の努力により,多くの翻訳書が出ています.それを読めば,母国語で数学を勉強することができます.しかし,それでもなお原著を読むべきです.

なぜかというと,英語に慣れておくべきだからです.今後,論文を読んだり書いたりすることは院では必須です.しかしながら論文は英語で書かれているので,英語の読み書きがある程度はできないと話にならないのです.

院では数学の勉強/研究に忙しくて英語の勉強どころではないので,せめて英語の本を読むことで眼を慣らしておきましょう.大丈夫,習うより慣れろです.


なぜ紙の本ではなく電子書籍なのか

辞書のように調べ物をするのに使う本は例外として,本は持ち歩けなければなりません.ところが数学書というのは往々にして分厚いため,1冊持ち歩くだけでも大変です.ましてや複数冊なんて.特に洋書は分厚いですね.

しかしながら,電子書籍であればどんなにたくさん持ち歩いたところで,端末の重さを超えて重くなることはありません.端末がある程度大きくなければ読むことができないので,別途 iPad Pro などが必要になりはしますが,一度端末を用意しさえすれば電子書籍が読み放題になります.

さらに,電子書籍のメリットはただ軽いだけではありません.場所を取らないというのも大きなメリットです.

一人暮らしなどしていると部屋が狭いので置ける家具に限りがあります.本棚と本は,使用頻度のわりに占有する空間が大きいため,紙で所有するのは得策ではありません.


英語の電子書籍を読む更なる利点

英語の電子書籍を読む利点として「軽くて場所をとらない」「専門的な本が充実していて,かつ英語の勉強にもなる」という利点を挙げてきましたが,まだあります.

実は洋書の中には著者が出版社に許可を得て電子版を無料公開しているものがあるのです.

これにより,大幅に本代を浮かすことが可能です.


英語に慣れること自体の更なる利点

そもそも「英語に慣れる」こと自体に大きなメリットがあります.

先述したように論文は英語で書かなければならないので,論文を書くときに役に立つのですが,それにとどまりません.

情報を発信するにせよ受信するにせよ,英語がわかるとそれだけで自由度の桁が変わります.

まず Mathematics Stack Exchange というサイトがあります.これは数学の質問をすると誰かが答えてくれるというサイトであり,英語ができるとここに質問を投稿することができますから,困ったときに疑問を解決しやすくなります.(たまに堂々と自信満々に間違ったことを教えてくるひとがいるので要注意です!)

次に,MIT OCW というのがあります.これは MITという海外の大学の公開授業を集めたサイトなのですが,量が多い上にレベルも高く,何か勉強したいときに便利です.Lecture Noteが公開されている授業も多いので,英語を聴きとるのが苦手なひとでも,英語を読むことができさえすれば十分活用できます.

推奨

先生とはきちんと相談を

指導教官の先生とは定期的に連絡を取りましょう.「取りましょう」というか,定期的に連絡を取ってくれて,たまに世間話ができる程度に優しい先生を選んでください.「手のかからない学生が好きだ」と公言するような先生などには間違っても師事してはいけません.

院での論文というのは,修論以外は指導教官との共著になることが多いのではないかと思います.つまり指導教官と相談しながら研究を進めていくわけですから,先生と会話が普通にできないことには話にならないのです.

私の場合は1週間に一回くらい進捗などを話し合う機会を設けてもらえました.ちょうどコロナが流行り始めた時期で,私は家でひとりぼっちだったのでこれがないと研究に関する刺激がゼロになってしまうところでした.

計算機の扱いに慣れておこう

私が在籍していた当時,数学科では授業で計算機の扱いを習うことはほとんどありませんでした.

確かにコンピュータまわりに習熟するのは時間がかかるので,数学をするのに忙しくて計算機なんか触ってる暇がないというのもわかります.

しかし,それでもある程度プログラミングには触れておくべきです.理由をいくつか挙げます.

理由1: 計算機なしには具体例の計算ができないから

数論では,具体例を扱う際に大きな数字や複雑な計算が出てきがちです.

それをいちいち手計算で計算していたのでは日が暮れます.

計算機に実行させることができれば,気軽に具体例をホイホイ調べることができて快適になります.

数論に限らず,他の分野でもそうです.

理由2: 自分が書いたプログラムが走ると楽しい

数学の勉強はつらく厳しいものです.

とくに本を読んでいて証明がさっぱり分からないときにはとても嫌な気持ちになり,本をぶん投げたくなります.

しかしそんなときであっても,具体例を計算機に実行させることに成功すると(何も進捗していないのに)なんだか達成感が湧いてきて束の間しあわせな気持ちになります.

こういうのも大事です.

理由3: 「どのくらい効率的に計算できるか?」という視点は重要だから

ユークリッドの互助法をご存じかと思いますが,あれはなぜ教科書に載るほど重要なのでしょうか?

ただ単に最大公約数を求めればいいだけなら,素因数分解してやってもいいはずです.なぜ互助法だけ特別扱いなのでしょうか.

それは,あのアルゴリズムがとても高速だからです.互助法ではwhile ループを2回回すごとに扱う数が半分以下になるので,多項式時間で計算が終了します.

他には,平方剰余の相互法則もそうです.あれを使えばある数が平方剰余であるかどうかを高速に計算できます.

どちらの例でも「高速に計算できる」という以外の嬉しさだってあるのですが,計算時間は具体的にオーダーの数値で比較できるのでわかりやいです.

このように,そもそも数学を学ぶうえでは「どのくらい効率的に計算できるか」という視点を欠くことはできず,数学で計算機を扱うのは自然だと思えるわけです.

助言

マルチディスプレイにしよう

論文というのはだいたい英語で書かれています.英語の論文というのはなぜか文字がたいへん小さいものと相場が決まっており,しかも2段組みになっていることもあります.とくに私などは目が悪いので,A4の紙にプリントなどすると文字が小さすぎて読めません.

PCに外付けするディスプレイがあると大変便利です.論文を拡大するのにも使えますし,TeXで作業する際にプレヴューが左,編集が右という風に使い分けることもできます.作業効率が大いに上がりますし,目にも優しくなります.予算があるならノートPC +2つの外付けディスプレイ で トリプルディスプレイにするのもいいですね.

個人的には,Dell のモニターが好きです.

防寒はしっかりやろう

修論というのは冬に出すことになっています.寒い中作業しないといけないので,防寒はしっかりやっておくべきです.特に私は冷え性なので,いかに作業しながら暖をとるかが死活問題でした.

私が使ってみて便利だと思ったのはルームシューズです.家の中で履くことができる靴で,履けば床の暴力的な冷たさから解放され,格段に暖かく感じられます.

ルームシューズを履いてもなお寒いことがありますが,その場合はルームシューズの中にカイロを放り込めば対抗できます.

また,もふもふした羽織りのようなものがあるとなお暖かくていいでしょう.

あと重要なのは風対策です.駅のホームには風を防ぐものが何もないので,無策で挑むと寒くみじめな思いをします.コートとマフラー類が必須なのは当たり前として,ロシアな帽子やイヤーマフがあると耳を保護できてよいです.

腰をいたわれ

椅子代をケチってはいけません.わるい椅子に座って作業をしていると,あっという間に腰をいわします.椅子を買うための初期費用よりもずっと高いコストを支払う羽目になるので,椅子は多少高価でも良いものを買いましょう.

もしもお金が足りないということであれば,腰椎コルセットをするのも手です.椅子よりもかなり安く,かつ腰痛予防の効果があります.


2024.02.24 追記: 反省

自分でこの記事を読み返してみて,違和感を感じたのでここに付記します.何が違和感なのかというと,全体的に「先輩からのアドバイス」調で書かれていることです.

正直に言って,私は何もアドバイスできる立場にありません.私自身の修士での研究はあまりうまく行かず,何も理解できていないうちに卒業してしまったというのが正直な感想です.おそらくこの記事を書いたときの私は,そのことに向き合うのがつらすぎるので無理やりアドバイス調で書いたのだと思います.

しかし,それはあまり誠実な態度ではありません.

幸い卒業から数年が経ち,少しは落ち着いて振り返ることができるようになったと思います.そこで,今度こそ正直になって,当時の私と同じ失敗をしないために何ができるか,反省点を書き残しておこうと思います.

リモートワークを避ける

私が院生になったのは,ちょうど新型コロナが流行して世間が大騒ぎになっていたころでした.その影響で院生室は立ち入り禁止になり,リモートでゼミ等に参加していたのですが,これがかなり良くなかったと思います.物理的に場を共有していれば,事前にアポを取ったりビデオ会議をセットアップしたりすることなく話しかけることができますが,リモートではできません.また同じ部屋にいれば,会話しなくても机の上に置いてある本などで近況をうかがい知ることができますが,リモートではそれもできません.

リモート勤務を強制するというのは,現状コミュニケーションの芽を奪ってしまうことを意味します.人権侵害として認めてもいいくらいです.

ただでさえ孤立しがちな院生の期間にリモート作業であったことは,間違いなく私にとってマイナスに働きました.場に顔を出して,その場にいる人に挨拶をしたり,世間話をしたりすることは研究を続けるために必要なことだったと思います.特に慣れないうちはそうです.

人を巻き込んで勉強する

一人で黙々と勉強すること自体は良いことなのですが,独学になるのは避けましょう.つまり,自分の理解は正しいのか?読む本は何がいいのか?どういう方向性で進めたらいいのか?といったことについてなるべく一人だけで決めず,人に相談しましょう.私は院生の時遠慮してしまってあまり教員に相談しなかったのですが,それは無駄な配慮です.嫌がられるのが確実なら避けるのも合理的ですが,嫌がられるかどうかわからないのに遠慮するのは非合理です.教員は迷惑をかけるために存在するのだと思って,世話を焼いてもらってください.

また,研究のような専門的なものについては難しいかもしれませんが,できるだけ他の人と一緒に勉強する機会を持ちましょう.自分の理解を試すいい機会になります.自分の知らないことを教えてもらえるかもしれませんし,逆に教えてあげられることがあるかもしれません.*4 私は修士の時一人で勉強しようとしすぎていて,その結果袋小路に迷い込んでしまったり,モチベが続かなくなったりしていました.

基礎をおろそかにしない

基礎は大事です.企業に就職して仕事をし始めると,「基礎だけでは意味がない.応用が大事」という主張を耳にすると思いますが,少なくとも数学が絡む場面において,基礎が重要でないことはありえないと思います.基礎をおろそかにして何を学んでも,応用が利きませんし,飲み会で素人相手に話す程度の役にしか立たなくなります.学問をうんちくのネタだとしか思っていないのなら基礎をおろそかにしても良いですが,そうではないですよね?

私が院生時代は焦ってしまって,基礎の勉強を省略して応用的なことを学んでみたりしたのですが,結局それは全部無駄になったと感じています.基礎から積み上げることを丁寧にやっていたら,もう少し確固とした学びを得られたかもしれないのにと後悔しています.

不安に負けない

研究生活というのは不安がつきものです.「この方法で研究うまくいくかな…」「研究ポスト見つかるかな…」「このテーマで良いのかな…」「研究上手くいかなかったとして,就職できるんだろうか…」「彼女/彼氏まだいなくて良いのかな…」などなど,心配することがたくさんあります.私が修士の時は,こういった不安に押しつぶされて何をしたらいいのかわからなくなり,めちゃくちゃになってしまったのですが,こうならないことが大事です.

不安に負けないために,一番簡単な方法は修士に進学しないことです.これは真面目に言っています.修士で研究を成功させるより,一般企業で働く方がずっと簡単です.企業で仕事を失敗してもそれは会社の損失になるだけで,社員としての立場は安泰ですが,院生が研究を失敗したらそれは人生の失敗に直結します.また企業での仕事は世界一になることも,世界で最初になることも一般には求められませんが,院生は常にそれを求められています.もちろん会社にもよりますが,相当ブラックでない限りは企業の方が楽だと思います.

次にできることは X(旧Twitter) などオープンなSNSを見ないことだと思います.あえて情報を遮断するわけです.Discord など,自分とよく似た趣味・興味の人が集まるSNSは問題ないのですが,オープンなSNSはとにかく意見が先鋭化したり感情を煽る方に向かいがちで,そんなものを見ては心を平穏にするのは無理です.

次にできることは,現実逃避せずとにかく進捗を生み出すことです.進捗がないから不安になったり「数学のおもしろさがわからない…」などと絶望したりするのであって,進捗があれば無心になることができます.進捗について考えていればいいからです.これができれば苦労しないだろうと思うので,休みながらでいいです.私が修士の頃は人にアドバイスを求めると「休みなさい」とか「気分転換しなさい」と言われたので素直にそうしていたのですが,これは良くなかったと思います.別のことをして気分転換するのは現実逃避と区別をつけづらく,逃避に走りがちになってしまうので.数学で生じた不安は,数学でしか倒せません.


追記は以上です.皆さん頑張ってください.応援しております.

*1:給与が出る研究室もありますが,ここでは考えないことにします

*2:クオンツ職はデータサイエンスの一部に分類しても良いかもしれません

*3:エンジニアも客とのやりとり自体はありますが,要件の整理などのドライなやりとりが中心です

*4:ハラスメントが起こらないように気を付けましょう.学生はみんな敏感です.